リンパ浮腫治療の柱

リンパ浮腫は、現在のところ完治させる治療法は確立されていないため、一度発症したリンパ浮腫を完治させることは難しいのですが、日常生活においてケアを続けることで症状を軽減させることが可能です。

近年では、早期に治療を開始することで軽度の状態に戻る方もいらっしゃることが、治療者の共通認識です。そのためにも、術後はセルフケアを継続して行い、体の変化の観察が大切です。

発症後長期経過している方も丁寧なケアによりかなり症状を軽減させることが期待できます。根気よくケアを続けることが大切です。

4つの治療要素

リンパ浮腫の治療方法は、「複合的理学療法」(あるいは「保存療法」)と呼ばれ、英語の頭文字を取ってCPT(Complex Physical Therapy)とも呼ばれます。

なお、CPTは、次のような効果があるとされています。
① 浮腫の軽減
② 運動制限の改善
③ 合併症(皮膚炎症)のリスク軽減
④ 精神的苦痛の緩和

CPTを構成する治療要素は4項目あり、「4つの柱」と言われています。

1.スキンケア

主に感染予防を目的としています。浮腫が発症する恐れのある領域の皮ふに発疹などの異常が現れていないかなどを観察します。また、保湿クリームなどで保湿をして皮ふの乾燥を防ぎます。浮腫を発症した皮ふは傷つきやすく炎症を起こしやすいため、ひび割れや水虫や蜂窩織炎などの感染症に気をつける必要があります。
蜂窩織炎は、赤いポツポツとした発疹から始まる方も多くいらっしゃり、その発見が早いほど重症化を避けることができています。皮ふ感染症を繰り返すことで、リンパ浮腫自体を悪化させることもあるので、毎日のケアが大切です。

2.用手的リンパドレナージ (MLD)

リンパドレナージマッサージの事です。ドレナージとは「排液」という意味で、むくみの液(リンパの液)を皮下から排液するという意味です。その名の通り、排液することを目的としたマッサージの事を指し、ご自身で行うリンパマッサージもセラピストが行うものも同じものを指します。
Manual Lymph Drainageの頭文字を取りMLDとも呼ばれています。

毎日作られるリンパ液を滞らせないように行いますが、体内を流れるリンパ液には、ルート(通り道順)が決まっています。そのリンパのルートをたどりつつ、手術で切除していないリンパ節に流すように軽く・ゆっくり・優しく皮ふを動かすように行います。※強く揉むことで炎症が起こる場合もあります。

手順があり、力加減や持病によっては考慮すべき注意点などもあります。必ず専門家の指導のもとセルフマッサージを行うようになさって下さい。一部の疾患の方は、MLDを実施してはいけないということもあります。

3.圧迫療法

大きく分けて、ストッキング、スリーブのような弾性着衣と呼ばれる医療用の衣料を着用する方法、伸びにくい包帯を複数層重ねる弾性包帯を巻く方法(多層包帯法)があります。
その目的は、組織の隙間にリンパ液がたまらないようにすること、さらにリンパ液の流れを良くすることです。

4.圧迫しながらの運動療法

項目3の「圧迫療法」をしながら、適度な運動を行います。筋肉による体液のポンプ作用で効率的な排液効果が望めます。
圧迫していない状態での運動は、浮腫を悪化させるリスクの高い行為です。運動する時には、圧迫をお忘れなく!

 

上記4項目を組み合わせて治療を行うため複合的理学療法と呼びます。

 

ちょっと小話~リンパドレナージの歴史~

リンパ浮腫は、現在のところ完治させる治療法は確立されていないため、発症後は一生の付き合いになるとされていますが、将来的にはiPS細胞によるリンパ管の再生治療が期待されています。

リンパ浮腫の治療は「複合的理学療法」と呼ばれ、英語の頭文字を取ってCPT(Complex Physical Therapy)とも呼ばれます。
その治療法が発明されておよそ100年が経ち、現在までその治療法は受け継がれています。
医療リンパマッサージは美容分野で用いられるリンパマッサージとその源は同じですが、医療リンパドレナージは、1960年代から1970年代にかけて主にドイツでその手法が確立され、その成果が認められるようになります。

ドイツでは1970年代から保険適応されて、医療として体系化されました。
入院治療施設もあり、独国内外から浮腫治療のために患者さんが集まり、またセラピストの講習も行われています。

日本には1990年代に紹介されるようになり、2000年から複合的理学療法の講習会が始まりました。
複合的理学療法を行い、各民間の認定資格講習を経てリンパドレナージセラピスト資格を得ることができます。資格取得の条件として、医療系の免許取得が必須となっています。
(医師、看護師、理学療法士、作業療法士、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師など条件は、資格団体によって異なります。)

セラピストがお手伝いできることは、主に患者様のQOLの改善となりますが、小さなことでもご相談いただける窓口のような存在でありたいと願っております。